目に見えぬものを言葉で表現するのは難しい。香りもそのひとつ。
のらの芳香蒸留水を作る体験を提供する時に「本日の香りは〇〇」と黒板に書く。
例えばレモングラス。
「レモンのような爽やかな香り」
なんて紹介をする。
うん、これは搾ったレモンの爽やかさが想像できるから伝えやすい。
しかし、もしレモンを知らない人がいればどう表現するか。
アオモジはどうだろう?
アオモジはレモングラス同様に仄かに柑橘系の香りがする。しかし、明らかにレモンではない。メントスのグレープ味のような感じだ。やはり、つい他のものと置き換えて表現してしまう…。
“不確かな夢を拾い合わせながら冷えた卵をフライパンの角で割った瞬間のような冷たさを感じる香り。”
うーん、訳がわからない。
では、南高梅はどうか?
「梅」と聞けば、多くの人は酸っぱい梅干しを想像するだろう。もし、手元に赤紫蘇でつけた梅干しがあったら匂いを嗅いでほしい。その匂いは実は赤紫蘇の匂いで、本来の梅の匂いではない。
南高梅の「香り」は、全く別物。熟してポツポツと落ちてくる梅林で作業をしていれば、その香りにどれほど幸せな気持ちになれるだろう。これを言葉で伝えることはとても難しい。
「甘い香り…」どのように甘いの…?
「まるで桃のような…」本当に似ている…?
「心が満たされるような…」むむむ…?
僕たちは何種類もの芳香蒸留水を作って、テントサウナのロウリュとして香りを楽しむ。
香道では香りは「聞く」と云うそうだ。日本語は何と美しいんだろう。
香りを楽しむ一番いい方法は、このロウリュではないだろうか?
熱したサウナストーンにかけて立ち上る蒸気の香りを楽しむ。ジュワー…バチバチバチ…
フワフワフワ…。
香りは鼻腔から脳内を巡り体の中でその成分が分解される。これが、香りを「聞く」とことなのかもしれない。
香りは活字では表現するのは難しいわけである。
などと、くちゃくちゃ理屈をこねながら今日も釜に向かう。のらの釜爺。
モイモイ