山羊の匂いというと、動物園の匂いを連想する人も多いかもしれない。雄の山羊は体臭がきついそうだが、うちのモイさんは雌なのでほとんど臭わない。
ここで言う臭わないは「臭くない」と言う意味であるが、嫌な匂いは全くしない。
尾をピンと上げ、ところ構わずコロコロとうんちをする。草ばかり食べる山羊のフンは無臭である。小豆より一回り大きなモイさんのフンは拾い集めて土に混ぜ、花壇や梅林の肥料にしている。(乾燥させたら着火剤になるかなと、やってみたけどダメだった)
しかし、モイさんから体臭が放たれる日がある。長く続く雨の日だ。
少し雨に濡れたその体からは、なんとも形容し難い獣の匂いがする。決して嫌な匂いではないのだが、いい匂いでもない。
モイさんの山羊小屋は僕らがくつろぐリビングのすぐ隣のテラスにある。僕らがテレビを観たり本を読んだり、パソコンを開いたりしている姿を、モイさんはガラス一枚隔てて済ました顔で見ている。
山羊は雨に濡れるのを嫌うので、雨の日にはその小屋から動こうとせず、ネクストバッターボックスの4番打者がピッチャーを観察するかのように、くちゃくちゃ口を動かしながら僕らを観察している。
隙あれば、ツノで戸を開けリビングに入ってくるつもりである。ある日、いつの間にか戸を開けて入ってきたモイさんが、猫と並んで座りテレビを眺めていたことがある。
匂いに話を戻そう。
雨が続く3日目くらいからは、ガラスの向こうから、その獣臭がフワッと漂ってくることがある。
僕らはこの匂いを「モイ臭」と呼んでいる。決して嫌な匂いではないが、深呼吸して味わいたい香りでもない。それは、「もう仕方がないなぁ」と諦めるような愛しさを感じる匂いである。
これを読んでくれているあなたが、もし彼女と会う機会があれば、モイ臭がどんなものか、ぜひ感じて欲しい。
「モイ臭を聞く」も、のらのプログラムに加えておこう。(^^)
モイモイ